BSCでIT投資/HR投資をマネジメントする  第3世代のBSC

 前回第2世代のBSCで戦略マップのテンプレートが登場し、顧客の視点に示されている顧客への3つの価値提案、「卓越した業務」、「顧客関係重視」、「製品リーダーシップ」、これがすなわち企業がとりうる戦略になり、この戦略に応じて内部ビジネスプロセスにおいてどの部分を卓越させるのかを企業の成功のシナリオ仮説をデザインするということをご紹介しました。

 しなしながら、戦略マップのテンプレートにおいて、改革の起点となる4つめの視点、学習と成長の視点については、今ひとつ何を決めればよいのかあいまいでした。

 この疑問に答えるべく、まとめられた「戦略マップ」という本(第3世代のBSC)では、特に学習と成長に視点に関して「無形の資産」としてその整備を図るのであるということが明快に示されました。

出典:「戦略マップ」、ロバート S・キャプラン、デビット P・ノートン著、櫻井通晴・伊藤和憲・長谷川惠一監訳(ランダムハウス講談社,2005年)

 

 無形の資産(インタンジブル・アセット)は人的資本、情報資本、組織資本から構成されるのですが、戦略との関係において「レディネス」という考え方が導入されています。これは戦略に対して準備ができているかどうかの状態を示すもので、顧客への新しい価値提案のために新しい業務プロセスを構築し稼働させる必要があるわけですが、それに必要な人材は揃っているのか、情報システムに過不足はないのか、会社の制度や組織文化は適合しているのかなどを評価していきます。

 

 インタンジブルアセット、レディネスに加えて、下記に示すように戦略マップ・BSCの構造についても大きな変化がありました。 

 まず最初の変化は戦略マップ・BSCをプロセスクラスター毎に作成することになったことです。第2世代の戦略マップでもプロセスクラスターの概念は示されていたのですが、プロセスの軸を考慮せずに戦略マップを作成し、非常に分かりにくい=戦略マネジメントに失敗するというケースが多々でてきました。

 そこで、第3世代では、まずはプロセスクラスター毎に戦略マップ・BSCを作成し、必要に応じて統合するというアプローチをとるようになりました。「戦略マップ」の本にはプロセスクラスター毎の戦略マップとKPIの例が詳細に提示されていますのでリファレンスとして使ってください。

 プロセスクラスターをしっかりと意識することで、組織との関係性も明確になってきます。加えて、次回ご説明しますが、情報資本との関係も明確に定義ができるようになります。

 

 次の変化は、事前指標、事後指標を定義しなくなったことです。財務の視点のパフォーマンスドライバーは入りについては顧客の視点、出るについては内部プロセスの視点になります。また上位組織の各指標のパフォーマンスドライバーは下位組織の指標になります。このように考えると各戦略目標について事前指標、事後指標を設定すると重複を生むことになり、実際には重複を避けるために無用に指標を増やすことになるだけだということで、戦略目標については成果指標を設定するのみとなりました。

 

 最後の変更点はアクションプランの正式な設定です。これまでは戦略目標と施策との関係を明確にしていなかったために、戦略は立案したものの実行されないということも起きていました。そこで各戦略目標についての施策をアクションプランとして設定し、その予算を戦略予算として管理することとしました。

 ここで注意すべきは財務の視点のアクションプランは設定してはいけないということです。その理由については、次回までの皆さんの宿題とします。

 

 次回は情報資本ポートフォリオを使ったIT投資マネジメントについて解説します。