前回は情報資本ポートフォリオを使って、新しい業務プロセスのために必要となる情報資本を明らかにするフレームワークをご紹介しました。今回は、その次のステップとして、IT投資の内容を決定する方法を示します。
その際に利用するのが、下記の「情報資本レディネス」というフレームワークです。
出典:「戦略マップ」:ロバート S・キャプラン、デビット P・ノートン著、櫻井通晴・伊藤和憲・長谷川惠一監訳(ランダムハウス講談社,2005年)
情報資本ポートフォリオでは、新しいビジネスプロセス(左側バリューチェーンプロセス、右側バックオフィス)を実現するためにどのようなアプリケーションおよびそれを支えるITインフラが必要かを定義しましたが、情報レディネスの図の上段には各プロセスクラスターにおける戦略テーマが示されており、下段には各テーマに対する既存情報資本のレディネス評価の結果が示されています。
その結果をまごめると商品ラインのクロスセルという戦略テーマに対しては、進捗が遅れているPPMのプロジェクトにテコ入れをし、ICFとCRMに若干の機能強化をすれば良いということがわかります。
一般に企業では多くのシステムが既に稼働しているわけですから、新しい業務プロセスを実施するにあたって、既存のシステムの変更で対応できるのか、新しく構築するのが必要なのかなどを判断することは、極めて理にかなっていると考えることができます。
さて、新しい業務プロセスは情報資本への投資によってのみ実現できるものではありません。戦略人材の確保も同時に必要となります。下図はその検討のフレームワークを示したものです。この図では、顧客管理プロセスに関して「商品ラインのクロスセル」という戦略テーマが設定されており、その実現にあたって「フィナンシャル・プランナー」という戦略人材が必要であると定義され、人的資本にはその人材に求められる属性が示されています。
出典:「戦略マップ」:ロバート S・キャプラン、デビット P・ノートン著、櫻井通晴・伊藤和憲・長谷川惠一監訳(ランダムハウス講談社,2005年)
以上ご紹介したように、第3世代のBSCでは、合理的に戦略をアクションプランに展開することができます。
以前に櫻井教授らとともにキャプラン教授と対談した際に、「自分はもともとMITの出身なのでで、システマティックに整理することが好きなのだ」というようなことをおっしゃっておられました。確かに、BSCだけでなくABCも非常によく構造化され、実行しやすいものになっています。
BSCを戦略マネジメントツールとして活用できるためには、部分最適ではなく全体最適を目指す必要があります。一つは組織間の調整を如何に図るかというもの、そしてもう一つはエンタープライズ。アーキテクチャとの関連です。
次回からはエンタープライズ・アーキテクチャについて掘り下げていきます。