日本のIT投資が守りになってしまうその奥深い理由としては、日本ではBSCの導入が進んでいないことがあげられます。
IT投資に限らずすべての投資は戦略を実現するためになされるべきなのですが、実はこの戦略マネジメントがうまくできていません。
日本の製造業のIoTが内部の改善にしか目が向けられていないという指摘をしましたが、その理由は、IoTで何を成し遂げたいかの戦略目標設定がなされておらず、IoTで何ができるかという、日本の企業やITベンダーが得意なシーズ志向の発想になっているからです。
効率化や品質改善への取り組みは日本企業のお家芸ともいえるもので、長らくその取り組みをしてきました。ですので、工場にIoTを入れて見えるかをしたとしてもその効果の及ぶ範囲は限定的で、あまり大きなリターンは期待できません。
ただ、この取り組みも、会社の戦略として、品質とリードタイムと価格で他社よりも抜きんでるということが設定されているのであれば、会社の方針とIoTの取り組みの整合が図れており、問題ありません。
しかしながら、例えば中小企業に目を向けてみると、彼らの第一の経営課題は効率化ではなく、売上の拡大です。その方法がわからず苦労しているところが多いのは事実ですが、品質とリードタイムと価格という従来からの強みでは生き残れないことは肌感覚でわかっています。そういう経営者にIoTで工場のラインの可視化をしましょうという話をしても、当然優先順位は低くなります。会社戦略とIT投資とが全く整合していないのです。
前回、生産機械メーカーさんとコマツさんの違いを書きましたが、その根本として、コマツさんは明確な戦略を打ち立てておられ、ソリューションを軸に市場シェアを獲得すると明言されています。ですので、外向きのIoTの活用ができているのです。
欧米の企業では当たり前のようにBSCが導入され、その結果、ビジネス戦略とIT投資との見事な整合が図れています。
したがって、世の中が急速にデジタル化するということへの対応するという経営課題が、IoTやオムニチャネルの優れた取り組みとして世の中にでてきているわけです。
そのため、次回は、BSCを使ってどのようにIT投資と戦略との整合を図るのかという点について、BSCの理解ということろからお話をしていきます。
私がBSCに取り組みを始めたのは1998年ごろからで、その後2006年度から隔年で米国で開催されるBSCのExecutive Conferenceに参加しました。私が参加した回のテーマは下記の通りです。残念ながら各回とも日本人の参加者は私一人でした。
2007 Executive Conference
PUTTING YOUR PEOPLE WHERE YOUR STRATEGY IS
~Creating a High-Performance Organization
2008 Business Performance Conference
Measure, Monitor & Manage What Matters
Palladium’s Business Performance Conference 2010
Measures That Matter
2010年の段階でBSCは一旦成熟した状態になったので、その後は参加していませんが、それまでの10年間でBSCは大きく成長しました。
BSCはその発展段階に応じて3世代に分けることができ、それぞれ本が出版されています。
第1世代のBSC
私がバランスト・スコアカードに取り組み始めたのは、1998年度にJISA(社団法人情報サービス産業協会)の行政情報化委員会の部会長を務めてからです。この研究活動で、米国会計検査院(GAO)「エグゼクティブガイド~情報技術投資のパフォーマンス測定と成果の実証」(1997年9月)と米国国防総省(DOD)「投資としての情報技術(IT)管理とパフォーマンス測定についてのガイド」(1997年2月10日)を分析したのですが、その中でIT投資のパフォーマンス評価としてBSCを使うことが示されていました。
ただし、このガイドラインには次の2つの視点が含まれていて、すぐには理解しがたいところがありました。
そこで、特に1.の部分に特化して、当時専修大学の教授であった櫻井先生といっしょに、JISAの1999年度の事業で「バランスト・スコアカード活用による情報化投資評価の研究」というものに取り組みました。おそらく日本ではじめてBSCによるIT投資評価の実践方法をまとめたものだと思っています。
この時に参照したのが、BSCの第1世代の理論と事例をとりまとめた「吉川武男訳『バランスト・スコアカード』生産性出版、1997年」です。
第1世代のBSCでは、指標間(事前指標と事後指標)の関係性を定義していきますが、とても作成が困難でコンサルタントや戦略担当者の自己満足の道具となっていたのかもしれません。
このような反省から、第2世代のBSCが登場します。「キャプランとノートンの戦略バランスト・スコアカード」ロバート S・キャプラン、デビット P・ノートン著、 櫻井通晴 著(東洋経済新報社、2001年)がそれです。
この内容については次号で説明しますが、戦略マネジメントツールとしてのBSCの基本体系が第2世代では整理されます。
第1世代のBSCは戦略実現に至る因果関係を説明するのに、4つの視点の事前的指標、事後的指標間の因果関係を定義しようとしました。以下にそのイメージを示します。MIT出身のキャプラン教授らしいアプローチですが、その為に戦略の全体像を把握することがほぼ不可能なものとなっていました。
第2世代のBSCはこの点を大いに反省し、「Strategy Focused Organization」という原題で出版されました。このタイトルが示しているように、第2世代からBSCは「戦略マネジメントツール」として位置付けられるようになります。
この本の出版と前後して、私はJISAのミッションで櫻井教授らとともに米国でのBSC導入成功企業を訪問しました。キャプランとノートンが作ったBalanced Scorecard Collaborativeにも訪問し、Harvardでは実際にキャプラン教授と意見交換する機会も持つことができました。
2001年のこのミッションのレポートは、以下で参照することができます。初心者だけでなくわかったつもりになっている方も一度目を通されることをお勧めします。
「バランスト・スコアカードによる戦略的経営の実践に関する調査研究」
第2世代のBSCについては、Balanced Scorecard Collaborative(現the Palladium)の訪問時に多くのサジェスションをもらい、上記の本でより理解を深めました。
なぜBSCを戦略マネジメントツールと呼ぶようになったのか、その理由は以下の通りです。
企業では戦略の展開のしにくさが問題となっており、戦略を実践できるように仕組みを作ることが最も重要である。実際、企業内に戦略を浸透させることを成功した企業は10%程度でしかない。このような企業の経営課題に対し、Balanced Scorecardのフレームワークは、戦略の実践における次の5つの障壁を克服しうるものである。
<戦略の実践における5つの障壁>
1.ビジョンの共有化での障壁
測定を通じて戦略の持つ意味を企業内に理解させ浸透させることができる。
2.コミュニケーション=人的な障壁
企業内での自分の位置付けを理解し、戦略の展開において、自分の役割を認識してもらうことができる。
3.経営資源の運用での障壁
経営資源(ヒト・モノ・かね)のどこに重点的に予算・計画を割り当て、戦略の展開に際しどこに投資すればよいかを決めることができる。
4.マネジメント面での障壁
戦略は継続的にフィードバックをかけその遂行方法を学習していかなければならないこと、長期的な視点で戦略を経営陣に認識させることができる。
5.リーダーシップ面での障壁
Balanced Scorecardを利用することで、経営陣は戦略を経営にあわせて軌道修正を加えることができる。
ここで、BSCは企業の戦略仮説を設定(可視化)するとともに、その進行状況をモニタリングし、戦略実現に向けて必要なアクションをとる、そのようなマネジメントツールとして再定義されたわけです。
そして、第2世代からBSCは、この戦略仮説を可視化するツールとして「戦略マップ」、その進行状況をモニタリングするツールとして「バランストスコアカード」の2つのセットとして説明されるように変りました。
次回は、戦略仮説の立案手順、モニタリング・軌道修正の方法について説明します。
前回BSCはKPIの測定ツールではなく、戦略マネジメントツールとして理解すべきであることをお伝えしました。この理解においてとても重要となるのが、以下の図です。
出典:「キャプランとノートンの戦略バランスト・スコアカード」ロバート S・キャプラン、デビット P・ノートン著、 櫻井通晴 著(東洋経済新報社、2001年)
この図に示すように 目標設定時には「財務」から「学習と成長」の方向に検討を進めるのですが、一方、その実現は、「学習と成長」から「財務」へと成果の連鎖があります。財務指標をゴールとして設定し、その実現のためにはどのような顧客価値を提示するのか、その新しい顧客価値の提供を実現するためには、特にどのビジネス・プロセスを競合他社に比してすぐれたものとする(「卓越」する)のかを定めます。
すなわち、バランスト・スコアカードを設計することは、自社なりの成功のシナリオを描くことに他なりません。
そして、全社のバランスト・スコアカードは最初に設計し、次いで事業部門→部・課→個人へとブレイクダウンさせ、個人や部門の業績評価を経営戦略とリンクさせるのです。
ここで重要になるのが、成功のシナリオを全社員が共有することで、その可視化ツールとして「戦略マップ」を作成します。
この戦略マップですが、我流で作成し、戦略の可視化・共有化ができていないことを良くみかけます。そのために、第2世代のバランスト・スコアカードでは、下記に示す、戦略マップのテンプレートが準備されました。
出典:「キャプランとノートンの戦略バランスト・スコアカード」ロバート S・キャプラン、デビット P・ノートン著、 櫻井通晴 著(東洋経済新報社、2001年)
顧客の視点に示されている顧客への3つの価値提案、「卓越した業務」、「顧客関係重視」、「製品リーダーシップ」、これがすなわち企業がとりうる戦略になります。財務の視点からたどると、企業の価値向上(米国式には株主価値の改善)のためには、収益増大と生産性向上の両方を考える必要がある。この収益増大のためには、新規および既存の顧客に何をアピールするのかを考えるのであるが、その選択肢が先に示した3つの戦略となる。3つを全て狙うのか、一つに絞るのかは上級経営者に求められる重大な意思決定となります。
さて、このテンプレートにおいて今一つ明確ではないのが、「学習と成長の視点」です。この4つめの視点について劇的な進化をさせ、IT投資との関係を明確にさせたのが、第3世代になります。次回はこの紹介をします。
前回第2世代のBSCで戦略マップのテンプレートが登場し、顧客の視点に示されている顧客への3つの価値提案、「卓越した業務」、「顧客関係重視」、「製品リーダーシップ」、これがすなわち企業がとりうる戦略になり、この戦略に応じて内部ビジネスプロセスにおいてどの部分を卓越させるのかを企業の成功のシナリオ仮説をデザインするということをご紹介しました。
しなしながら、戦略マップのテンプレートにおいて、改革の起点となる4つめの視点、学習と成長の視点については、今ひとつ何を決めればよいのかあいまいでした。
この疑問に答えるべく、まとめられた「戦略マップ」という本(第3世代のBSC)では、特に学習と成長に視点に関して「無形の資産」としてその整備を図るのであるということが明快に示されました。
出典:「戦略マップ」、ロバート S・キャプラン、デビット P・ノートン著、櫻井通晴・伊藤和憲・長谷川惠一監訳(ランダムハウス講談社,2005年)
無形の資産(インタンジブル・アセット)は人的資本、情報資本、組織資本から構成されるのですが、戦略との関係において「レディネス」という考え方が導入されています。これは戦略に対して準備ができているかどうかの状態を示すもので、顧客への新しい価値提案のために新しい業務プロセスを構築し稼働させる必要があるわけですが、それに必要な人材は揃っているのか、情報システムに過不足はないのか、会社の制度や組織文化は適合しているのかなどを評価していきます。
インタンジブルアセット、レディネスに加えて、下記に示すように戦略マップ・BSCの構造についても大きな変化がありました。
まず最初の変化は戦略マップ・BSCをプロセスクラスター毎に作成することになったことです。第2世代の戦略マップでもプロセスクラスターの概念は示されていたのですが、プロセスの軸を考慮せずに戦略マップを作成し、非常に分かりにくい=戦略マネジメントに失敗するというケースが多々でてきました。
そこで、第3世代では、まずはプロセスクラスター毎に戦略マップ・BSCを作成し、必要に応じて統合するというアプローチをとるようになりました。「戦略マップ」の本にはプロセスクラスター毎の戦略マップとKPIの例が詳細に提示されていますのでリファレンスとして使ってください。
プロセスクラスターをしっかりと意識することで、組織との関係性も明確になってきます。加えて、次回ご説明しますが、情報資本との関係も明確に定義ができるようになります。
次の変化は、事前指標、事後指標を定義しなくなったことです。財務の視点のパフォーマンスドライバーは入りについては顧客の視点、出るについては内部プロセスの視点になります。また上位組織の各指標のパフォーマンスドライバーは下位組織の指標になります。このように考えると各戦略目標について事前指標、事後指標を設定すると重複を生むことになり、実際には重複を避けるために無用に指標を増やすことになるだけだということで、戦略目標については成果指標を設定するのみとなりました。
最後の変更点はアクションプランの正式な設定です。これまでは戦略目標と施策との関係を明確にしていなかったために、戦略は立案したものの実行されないということも起きていました。そこで各戦略目標についての施策をアクションプランとして設定し、その予算を戦略予算として管理することとしました。
ここで注意すべきは財務の視点のアクションプランは設定してはいけないということです。その理由については、次回までの皆さんの宿題とします。
次回は情報資本ポートフォリオを使ったIT投資マネジメントについて解説します。
情報資本ポートフォリオをご紹介する前に、IT投資マネジメント成熟度モデルというものをご紹介します。
IT投資マネジメントにおいて最もハードルが高いのは、個々のIT投資の評価ではなく、「全体最適=戦略との整合性を図ること」です。
そのため、IT投資マネジメントがどの程度うまくできているかどうかを判断するための物差しとしてIT投資マネジメント成熟度モデルというものがGAOから提示されています。
出典:GAO, "INFORMATION TECHNOLOGY INVESTMENT MANAGEMENT A Framework for Assessing and Improving Process Maturity", March 2004 を宗平訳
IT投資の起案が上がる際に、個々についてその可否を判断しているというのがステージ2で、多くの企業がその段階にあるといえます。
成熟度モデルの基本として、まず目指すべきターゲットはステージ3になります。この内容をみると、事前評価、中間評価、事後評価というマネジメントプロセスだけでなく、IT投資ポートフォリオをベースとして全体最適を常に図ろうとしていることがわかります。
事前評価、中間評価、事後評価のプロセスを持つ企業は多いと思われますが、その判断がプロジェクト単位ではなく、全体最適、すなわちエンタープライズアーキテクチャと照らしあわせて行われている企業は非常に少ない様に思われます。
全体最適の視点を有するかどうかによって各評価における評価基準は大きく変わります。実は、ここに多くの企業が部分最適に陥っている理由があるのではないかと思っています。
ITポートフォリオの記載方法にはいくつか種類がありますが、戦略との連携を明確にするために、BSCの情報資本ポートフォリオを以下に紹介します。
出典:戦略マップ」
ロバート S・キャプラン、デビット P・ノートン著、櫻井通晴・伊藤和憲・長谷川惠一監訳(ランダムハウス講談社,2005年)
詳細は次号にて
前回簡単に情報資本ポートフォリオを説明しましたが、その活用方法の説明の前に、「戦略マップ」では、情報資本をどのように定義しているのかをまず説明します。
出典:戦略マップ」
ロバート S・キャプラン、デビット P・ノートン著、櫻井通晴・伊藤和憲・長谷川惠一監訳(ランダムハウス講談社,2005年)
上記はキャプランとノートンが定義している情報資本ですが、この定義はPeter WeillのITポートフォリオの考え方を引き継いだものです。一般に業務アプリケーションを業務(処理)系と情報系に分類しますが、この定義においても同様ですが、これらのアプリケーションの中で特に次の戦略との関係が深いものを「変革アプリケーション」として特だししています。どのアプリが他社よりも「卓越」しなければならないのかが、よくわかるようになっています。また、インフラにおいても「マネジメント・インフラ」が定義されているのは、要注意です。COBITのPOを見ると情報アーキテクチャや技術アーキテクチャの制定が情報戦略の重要な要素として位置づけられていますが、その思想がここにも反映しています。J-SOXにおいてIT全般統制に関して種々のドキュメントを整備させられましたが、それらもマネジメントインフラとして位置づけられています。EAが定着している欧米ならではの発想ですね。
出典:戦略マップ」
ロバート S・キャプラン、デビット P・ノートン著、櫻井通晴・伊藤和憲・長谷川惠一監訳(ランダムハウス講談社,2005年)
この情報資本をビジネスプロセス(正確にはビジネスクラスター)との関連を意識して整備したのが情報資本ポートフォリオです。図の左側は戦略実現に直接貢献するものであり、内部プロセスの視点の戦略目標を実現するために設計された新しいビジネスプロセスのために必要となるアプリケーションは何かが示されています。復習になりますが、企業の業務プロセスを大きく、イノベーション(商品開発)、顧客マネジメメント、オペレーションマネジメント(調達、生産、物流)の3つに分類し、それぞれにおいて必要なる変革アプリケーション、分析アプリケーション、トランザクション処理アプリケーションは何かを示しています。(ここはエンタープライズアーキテクトの腕のみせどころです)。
図の右側は間接的に戦略実現に貢献するもので、人的資本、組織資本に関わるアプリケーションが示されています。
そして、これらの新しいアプリケーションを稼働・開発・運用するために必要な物的インフラ。マネジメントインフラを図の下部において示します。
ところで、これらのアプリケーションやインフラは全て一から作るかというとそうではありません。企業には既に稼働しているたくさんのアプリケーションがあります。そこで、「レディネス」という概念が非常に重要になってきますが。これについては、次号で紹介します。
前回は情報資本ポートフォリオを使って、新しい業務プロセスのために必要となる情報資本を明らかにするフレームワークをご紹介しました。今回は、その次のステップとして、IT投資の内容を決定する方法を示します。
その際に利用するのが、下記の「情報資本レディネス」というフレームワークです。
出典:「戦略マップ」:ロバート S・キャプラン、デビット P・ノートン著、櫻井通晴・伊藤和憲・長谷川惠一監訳(ランダムハウス講談社,2005年)
情報資本ポートフォリオでは、新しいビジネスプロセス(左側バリューチェーンプロセス、右側バックオフィス)を実現するためにどのようなアプリケーションおよびそれを支えるITインフラが必要かを定義しましたが、情報レディネスの図の上段には各プロセスクラスターにおける戦略テーマが示されており、下段には各テーマに対する既存情報資本のレディネス評価の結果が示されています。
その結果をまごめると商品ラインのクロスセルという戦略テーマに対しては、進捗が遅れているPPMのプロジェクトにテコ入れをし、ICFとCRMに若干の機能強化をすれば良いということがわかります。
一般に企業では多くのシステムが既に稼働しているわけですから、新しい業務プロセスを実施するにあたって、既存のシステムの変更で対応できるのか、新しく構築するのが必要なのかなどを判断することは、極めて理にかなっていると考えることができます。
さて、新しい業務プロセスは情報資本への投資によってのみ実現できるものではありません。戦略人材の確保も同時に必要となります。下図はその検討のフレームワークを示したものです。この図では、顧客管理プロセスに関して「商品ラインのクロスセル」という戦略テーマが設定されており、その実現にあたって「フィナンシャル・プランナー」という戦略人材が必要であると定義され、人的資本にはその人材に求められる属性が示されています。
出典:「戦略マップ」:ロバート S・キャプラン、デビット P・ノートン著、櫻井通晴・伊藤和憲・長谷川惠一監訳(ランダムハウス講談社,2005年)
以上ご紹介したように、第3世代のBSCでは、合理的に戦略をアクションプランに展開することができます。
以前に櫻井教授らとともにキャプラン教授と対談した際に、「自分はもともとMITの出身なのでで、システマティックに整理することが好きなのだ」というようなことをおっしゃっておられました。確かに、BSCだけでなくABCも非常によく構造化され、実行しやすいものになっています。
BSCを戦略マネジメントツールとして活用できるためには、部分最適ではなく全体最適を目指す必要があります。一つは組織間の調整を如何に図るかというもの、そしてもう一つはエンタープライズ。アーキテクチャとの関連です。
次回からはエンタープライズ・アーキテクチャについて掘り下げていきます。